やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

袋小路に入ってしまった年金制度改革をどうしたものか


 今国会で審議が予定されている重要法案のひとつに年金制度改革法案がありますが、ついに石破茂さんが参院本会議で今国会での審議を行う前提での答弁を行って火がついております。

 もっとも、もともと検討するはずだった基礎年金(一階部分)の引き上げは早々に暗礁に乗り上げ、現状の議論では早くても28年度通常国会ぐらいまでにどうにかってことで随分先にまで持ち越しになってしまいました。細やかな議論は省略しますが、物価上昇を見込んだマクロ経済スライドについては制度全体を揺るがす年金肥大化を促しかねないという意味合いも各先生から警鐘が鳴らされる一方、基礎年金の部分で2カ月8万円の支給でどれだけの生活の足しになるのかってところを考えると本来の年金の役割に関して「年金だけで生活できる設計になっていない。きちんとした貯蓄を老後に備え計画的に」っていう、それができねえから困ってんだろという話にダイレクトに繋がってしまう話になるわけであります。

 04年の年金制度改正では、単純に年金の国庫負担分を三分の一から二分の一に変更したところ、見事に「負担割合が増えたので、無事国庫負担が凄く増えました」という当たり前の結論になり、そして財源捻出のために消費税増税と所得に応じて保険料を納める「所得比例年金」の導入や、年金給付の水準を減らしていき、それまで8年間凍結されていた保険料を段階的に引き上げるなどの大ネタになりました。

 今回の審議にあたって、過去のパブコメなんかもまとめて目を通しているんですが、まあ要するに15年前とあんまり変わらない議論を延々繰り返している間にどんどん状況が悪くなって、大幅な改革案を取りまとめても問題解決の入り口にも立てないよねって話になってくるわけですよ。興味のある方は是非流し読みしていただければと存じますが、割と面白いのが「必要」「問題がある」「すべき」とされているものはいちいちごもっともなのに、全部繋ぎ合わせて読むと「で、それってもともとの制度に問題があるから解決しないんじゃ」って結論になるところなんですよ。

年金制度改正に係るこれまでの意見の整理

 年金制度改革も突き詰めれば若い人が多くてみんなで高齢者をわっせわっせ支えられていればこんな問題にはならなかったものが、将来的な勤労世帯人口減少による保険料の流入目減りも高齢者増で給付総額が増えていく話もセットで起きていることであるから、制度の「中」の変更をいくらやっても解決にはつながらず、必要なことはもちろんやるべきなんだろうけど全部はできない、じゃあどうしますかという撤退戦になっていく。ところが、撤退するということは給付水準も大きく減るし物価上昇に比べて年金は伸びなくなるのだから円安や物価高でいきなり高齢者の生活は厳しくなる、そういう世界観でどう対処するねんという話になるのです。

 で、今日は今日とて「どうしましょうね」と議論していても、やはり制度の「中」の改革の問題ばかりになっていますから、最終的にはトリアージにならざるを得ません。

 年金制度の「外」の問題で厳しいなと思うのは、給付水準を削減しますので、それでは暮らしていけなくなった高齢者が年金制度から離脱して生活保護に移るということです。生活保護は当然立派なセーフティネットですから頼っていただくことを前提にするわけですが、年金部会でも他の社保審他での議論も「いまの制度を維持するためにどうするか」というところで話し合われたうえで、制度の「外」で、国民が例えば年代別、所得別にどういう生活実態があり、いかなる金融資産状況と税金・社会保険料負担をしているのかがスコープに入ってこないので、そもそも社会保険料を下げるべきとか、国庫年金負担をとにかく下げてほしいとか、そういう具体的な話にはうまく対処ができていないように見えます。

 その総仕上げが今回のネタであり、リスクシナリオを仕込んでも経済成長を目指す議員からは評判が悪く、基礎年金底上げの判断は約5年先に先送りにして当面必要な年金制度改正だけをやりましょうというのが果たして国民全体の利益になるのだろうかというのは気になるところであります。

 一部には、与党筋からも「無理だと分かってて総理は年金制度改革を今国会でやるっていってるんでしょ」っていう冷めた目線もたくさんあります。まあ当然よな… つか、07年参院選では旧社会保険庁の問題もあり社保庁改革関連法が成立したにもかかわらず参院選で与党自民党が惨敗した経緯があります(第一次安倍晋三政権)。

 思い返すと私がいわゆるその辺の御庭番業務をやるきっかけになった選挙のため、思い入れも深いところなんですが、今回の石破茂政権も無理に年金を維持って参院選で惨敗するぞとか言う話になると文字通り自由民主党・公明党の連立政権は下野も現実のものとなりかねませんので、さてどうしたものかと思うんですよね。そういう鬼門のような年金制度改革を、基盤の弱い少数与党石破政権でやるべきか、というところなんでしょうが…。

 青臭いことを言うようですが、野党に判断を丸投げしてでも年金基礎部分については底上げを提唱してみて、できる限りトライしてみたらいいんじゃないかというのが本音です。抜本的な制度の「外」の改革に資する話は、先延ばしにするほど国民からすれば厳しい対処を求められることになりかねませんから。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.465 年金制度改革法案に頭を悩ませつつ、SNS時代の公職選挙法のあるべき姿を探ったり米Stargateプロジェクトにツッコミを入れる回
2025年1月31日発行号 目次
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【0. 序文】袋小路に入ってしまった年金制度改革をどうしたものか
【1. インシデント1】公職選挙法を睨むあれこれと正しく戦う民主主義の今後
【2. インシデント2】米トランプ政権のStargateプロジェクトで交錯するそれぞれの思惑やいかに
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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